「手持ち式便器」から「ランドマックが見える窓風景」へ: 静安区旧市街地再開発が拓く市民生活と都市再生
原稿発送の期日:2025-11-24 訪問回数:

かつては痰壺の処理に追われ、公衆トイレの使用を巡り争奪戦が日常であった。しかし現在では、新居のバルコニーから上海の「3点セット」(上海タワー、上海ワールド・フィナンシャル・センター、ジンマオタワーの三大超高層ビルの愛称)が一望できる。まるで夢のような光景である。今年9月、談家橋路団地の住民・陳氏は新居の鍵を受け取った際、その喜びと感慨を隠さなかった。専用台所や浴室のない狭く老朽化した住まいから、設備が整った現代的な新居へ移り変わり、半生を悩ませてきた「手持ち式便器」に代わり、窓を開ければ都市のスカイラインを楽しめる日々となった。静安区は長年にわたり旧市街地改造の課題に取り組み、市民生活の向上と都市再生という二大目標を着実に達成し続けている。

「手持ち式便器」の壁を突破:屋外一括改造に込められた市民生活の知恵

「手持ち式便器」は静安区旧市街地の多くの住民にとって長年の悩みの種であった。80年以上の歴史を持つ愚園路433弄では、38世帯が劣悪な公共トイレ2カ所を長年共有し、ピーク時には180人以上が押し寄せていた。トイレ問題が深刻化する中、古参住民の3分の2以上が転居を余儀なくされた。建物の老朽化や室内改造の困難を前に、この根本的な生活課題を如何に解決するかが問われた。

静安区は「屋外一括改造」という革新的な施策でその答えを出した。2018年には、所有者と積極的な調整を行い、公衆トイレ付近の約100平方メートルの空き倉庫を活用、隣接する公衆トイレと合わせて改造を実施し、39戸に独立した「1戸1トイレ」を整備した。各トイレは約1平方メートルの空間を持ち、蛇口やコンセント、独立した水道・電気メーターを備え、一部にはシャワー機能も設けられている。この改造は単なるトイレ問題の解消にとどまらず、住宅コミュニティの居住環境を根本的に改善し、住民に生活の尊厳とプライバシーを取り戻させた。

この初期段階での成功は、その後の旧市街地改造における貴重な知見となった。2024年から2025年にかけて、静安区は計画通り衛生設備のない1930戸の住宅改造を完了した。このうち1904戸は小規模旧住宅の収用を活用し、残る26戸は収用条件を満たさない住民に対し「一戸一策」の方針で建物内改修や屋外拡張方式で対応し、「手持ち式便器」生活から完全に脱却した。

愚園路433弄の個別事例の成功から区全体のシステム的施策へと進展し、「ゼロからの突破」の「屋外一括改造」モデルは、集約性と効率的な優位性によって、近隣トラブルの回避にも対応できる、老朽住宅改造の「万能鍵」となり、限られた空間内でも住民が最低限のトイレの尊厳を実現することができた。

一式改造による難関突破:多様な施策で市民生活の約束を前倒し実現

屋外一括改造が過渡的な生活ニーズへの巧みな対応である一方、旧住宅の一式改造は住民に安心して暮らせる夢を叶える堅実な取り組みである。

上海市内で小梁・薄板構造住宅が最も多い行政区として、静安区は自らに高い目標を課し、市委員会・市政府が掲げた「2027年末までに小梁・薄板構造住宅改造全面完了」という目標を2025年までに前倒しで達成した。

同区房管局(住宅保障と建物管理局)副局長・王燕鋒氏は記者に対し、静安区は地域の実情に即した多様な施策を組み合わせ、分類別に対応することで住民の居住環境改善を多角的に推進していると説明した。「空間が比較的独立し、街区全体で計画可能な場合は解体再建方式を採用。一方で解体再建が不可能な住宅については実情に応じ現地改造を進め、周辺条件が厳しく、解体再建や元の場所での改造が困難な場合には、別の場所に住宅を提供し改造を行っている。全体を通して、最終的な目標は世帯ごとに専用のキッチンとトイレを確保し、生活環境を向上させ、住民が安心かつ快適に暮らせる住まいづくりである」と述べた。

2023年には蕃瓜弄団地で契約率・移転率ともに100%を達成し、市委員会主要指導者によるテーマ教育の唯一の連絡拠点となった。

2024年10月25日、普善団地プロジェクトは住民契約開始当日より発効し、11月8日に100%契約を達成。

2025年2月8日、愚園路627弄30・31号プロジェクトは住民契約を開始し、同日に100%契約を達成。

2025年2月10日、中興路1377弄5~14号プロジェクトは住民契約を開始し、3月11日に100%契約を達成。

2025年3月5日、常徳路695号プロジェクトは住民契約を開始し、同日に100%契約を達成。

2025年5月30日に発効した宝山路プロジェクト(小梁・薄板構造住宅改造の区内最終案件)は、小梁・薄板構造住宅改造の完了を象徴し、市全体目標より2年半も早く課題解決を果たした。

40年間宝山路601号2階に居住する65歳の王珊氏は、同団地の改造に深い思い入れがあると語った。1960~70年代に建設されたこの団地では、最大の問題はキッチンとトイレの共用であり、最も過酷な時期には同一フロア8世帯がわずか1.7平方メートルのトイレ2基を共有していた。「シャワーも、トイレも順番待ち、野菜を洗うのも食器を洗うのも、蛇口の前で順番待ちが必要だった。」それに対して、現在改造事業では増築と改修を組み合わせ、建物に2階を増設しエレベーターを設置、総建築面積は約8000平方メートルとなった。各戸に独立したキッチンとトイレを設け、長年の課題を完全に解消した。

「都市の顔」を刷新:「安心して住める」から「楽しく暮らせる住まい」へ品質向上

旧市街地改造は居住環境の劇的な改善に留まらず、都市機能やコミュニティ施設、生活の質の全面的な向上にも大きく寄与している。2025年には静安彭一団地と談家橋路の2プロジェクトで住民の戻り入居が順次完了し、彭一団地は7月、談家橋路団地は9月に新生活が開始された。

談家橋団地で約40年暮らしてきた陳氏は、新居の鍵を受け取ると真っ先にトイレ室を訪れた。白く清潔な独立便器と充実したシャワー設備を見て自然に笑顔がこぼれたという。「以前は朝に痰壺を処理し、夕方にはバケツで水を運ぶのが日課で、高齢者がきしむ木製階段を登って汚物を処理する際には、少し気を抜けば転倒する危険もあった。ついに、長年待ち望んだ独立したトイレ室の夢が実現したのだ!」と陳氏が語った。

トイレを出た陳氏はバルコニーの窓を開けた。目に広がる景色に一瞬で圧倒された。見上げれば、上海の「3点セット」と称されるランドマック建築が太陽の光を浴びて輝き、煌めく都市の輪郭を描き出していた。その壮大な眺望景色は、目を奪われるほどだ。目を下に向けると、住宅街全体が新たな姿に生まれ変わっている。建物は整然と並び、薄灰色の外壁と透明なガラス張りの窓がモダンな雰囲気を醸し出す。かつて狭かった路地も、今では緑が広がり、草木が織りなす美しい景観が目の前に広がる。充実した公共施設が点在し、あらゆる年齢層の住民にとって心地よい憩いの場となっている。かつて雑然としていた場所までも、今では近隣同士が楽しく交流できる暖かな空間へと生まれ変わった。生活必需品の確保から窓を開ければ景色が広がるまで、この都市の中で、人々が夢見てきた「住み心地の良い」生活は、着実に現実となりつつある。

2025年までに、静安区は年間目標である1万6500平方メートル、522戸の老朽住宅改造を完遂した。区内にはなお約17万平方メートルの専用台所・浴室のない職員住宅が改造待ちであるが、今後は地域発展計画に基づき、住民ニーズや住宅実情、コミュニティ施設を総合的に勘案しつつ、改造事業を継続的に推進し質の高い発展を支援していく方針である。

静安区の旧住宅改造は単なる物理的空間の刷新にとどまらず、市民生活を中核に据えたシステム全体の大変革である。屋外一括改造でトイレ問題を解決し、「安心して住める」基盤を確立。独立したトイレ室の普及とさらに高度なアップデートで「住みやすさ」を一層強化した。さらに付帯施設の充実と環境美化により、「楽しく暮らせる住まい」への飛躍を実現している。「限られた空間で最大効果を発揮する」知恵を持って、旧市街地改造の効果的な道筋を確立している。

より多くの住民が新居の窓を開ければ、映るのは輝く都市スカイラインのみならず、質の高い発展の中で「安心して住み、楽しく暮らせる住まい」を実現し続けるこの都市の温もりでもある。