上海思朗科技股份有限公司(以下「思朗科技」)はこのほど、中国初となる完全独立研究開発した3D科学計算用コンピュータ「天穹」を正式に発表した。従来の2Dアーキテクチャを採用したスーパーコンピュータと比較して、100倍から1万倍もの計算速度向上を実現しており、世界の人工知能と科学技術が融合する新たな競争分野において、中国に強力なイノベーションによる促進力をもたらすものと期待される。
現在、世界的なAI開発競争は新たな段階に突入している。「『人工知能+』行動の実施深化に関する意見」指導の下、国内産業界が計算能力、アルゴリズム、データ供給の強化に注力している。また、バイオものづくり、新素材、半導体といった重要分野において、技術開発から実装、製品化までをAIが一体的かつ協同的に発展させる動きが加速している。こうした中、学際的な汎用能力を備え、基盤アーキテクチャが自主的かつ制御可能であり、かつマルチスケールな研究課題に対応できるインテリジェント計算インフラの構築こそが、競争優位性を確立するための決定的な突破口となっている。
こうした背景の下、思朗科技は基盤アーキテクチャのイノベーションを突破口とし、完全独自研究開発した代数演算プロセッサ「MaPU」アーキテクチャを武器に、堅実で信頼性の高い「ハードテック」イノベーションで国産チップアーキテクチャ分野の空白を埋めた。そして、AI時代の高性能計算プラットフォームに向け、サプライチェーン全体の国産化を実現した極めて高効率なソリューションを提供している。
MaPUアーキテクチャは、思朗科技の創業者であり、元中国科学院自動化研究所所長の王東琳氏が2009年に初発明したものである。10年以上にわたる研究開発と最適化を経て、カーネル、命令セット、計算アーキテクチャのレベルで根本的なブレークスルーを実現した。ASICの高効率性と、CPU・GPUの柔軟なプログラマビリティという双方の利点を融合させた汎用計算アーキテクチャ分野における重大な発明である。
現在、思朗科技がMaPUアーキテクチャに基づく研究開発した科学計算、通信、映像関連製品はすでに商用化を実現している。その応用範囲は、スマートフォンの映像体験の向上といった身近なものから、国内の衛星インターネット通信に対する重要な技術支援に至るまで多岐にわたる。この実績を基盤として生み出された、国内初となる完全独立研究開発した3D科学計算用コンピュータ「天穹」は、AI4S(AI for Science:AIを用いて科学的発見を加速させる最先端な研究分野)におけるブレークスルーを牽引する重要な原動力になると期待されている。「天穹」は、MaPUという基盤アーキテクチャの優位性と、完全な3Dインターコネクトを用いたシステム全体のアーキテクチャという2つの発生源イノベーションによって、最小限な通信遅延を実現しながら、計算効率を数百倍や数千倍まで引き上げた。このシステムは、あらゆる3Dシミュレーションにおける科学課題の解決にネイティブ対応しており、従来の2Dアーキテクチャを採用したスーパーコンピュータと比較して、100倍から1万倍もの計算加速効果をもたらす。
現在、科学の最前線は原子、亜原子、量子スケールへと急速に深化しており、ミクロ世界の本質的な法則に対する理解の限界を突破するための新たなツールが喫緊に求められている。タンパク質などの生体高分子構造の「静的」な観測に画期的な進展をもたらしたクライオ電子顕微鏡に続き、「天穹」に代表される高精度科学計算システムは、シミュレーションを通じてミクロ世界の「動的」な法則を探求する新世代の「デジタル顕微鏡」となりつつある。これらは、科学研究パラダイムの体系的な進化を支える決定的な基盤となっている。
「天穹」のプロトタイプ初号機は2022年に引き渡され、現在は上海科技大学のキャンパス内で稼働している。これは、科学インテリジェンス領域に特化し、かつ完全独自アーキテクチャに基づく中国初の3Dスーパーコンピュータである。その分子動力学シミュレーションの実測性能は1日あたり5~10マイクロ秒に達し、国内の従来型スーパーコンピュータと比較し、100倍から1万倍もの高速化を実現している。国際的にもトップレベルの水準であり、米国のスーパーコンピュータ「Anton 2」に匹敵する性能である。2023年、「天穹」を技術基盤として、湖北省孝感市ハイテク産業開発区と思朗科技が共同建設した「長江3D科学計算センター」が正式に稼働を開始し、世界最大規模の汎用3D科学計算コンピューティング・クラスターが形成された。同センターは稼働以来、世界200以上のトップレベルの研究チームやイノベーション機関にサービスを提供してきた。北京大学、上海交通大学、浙江大学、武漢大学などの大学と緊密な共同研究を展開し、バイオ医薬品や新素材などの分野における20社以上の企業に計算リソースと技術サポートを提供している。さらに、計算能力によるエンパワーメントを通じて、科学の発展や国家の経済と人民の生活に関わる一連の重大プロジェクトにも参画している。
現在、「天穹」は数多くの基礎研究において実質的な進展を後押ししており、すでに20篇近い国際的な有力学術誌への論文掲載を支援したほか、複数の新薬候補を前臨床試験の段階へと移行させている。具体例としては、自己免疫疾患の創薬ターゲットに対し、「天穹」の高精度シミュレーションを活用することで、新たなアロステリックポケットおよび新薬候補分子を初めて発見することに成功した。現在、これらの成果は実験による検証段階に入っている。今後は、有望な新薬候補の臨床試験への移行を促進するとともに、新興な創薬バイオベンチャーのインキュベーションにおける技術的な支えとなることが期待されている。
創薬の重要プロセスであるターゲット探索や分子設計への貢献に加え、3D科学計算用コンピュータ「天穹」の応用領域は継続的に拡大している。今後、量子化学やAIモデルのトレーニングなど多岐にわたる研究課題を順次サポートし、中国の基礎科学の発展および各分野の技術進歩に対し、強力な計算リソースを提供していく。また、新素材、新エネルギー、ハイエンド製造などの分野におけるトップ企業やチームに対し、規模と効率を桁違いに向上させた高性能計算サービスを提供することで、あらゆる分野において「AI4S」という新たな研究パラダイムの探索と確立を強力に後押ししていく方針である。
思朗科技は2016年に設立され、コアチームは中国科学院自動化研究所の出身である。上海市静安区の市北ハイテクパークに本社を構える思朗科技は、静安区の科学技術イノベーションの領域における際立った存在であり、「データインテリジェンス」産業の重要メンバーである。国家級「専精特新(専門化・精密化・特徴化・新規性)」型「小巨人(高い成長性または大きい発展のポテンシャルを持つテクノロジーイノベーション中小企業)」企業やハイテク企業認定、市級「専精特新」企業、市級企業技術センターなど、多数の有力な認定を持っており、力強い実力によって数年連続で世界のユニコーン企業リストに名を連ねており、上海市の重点支援対象のユニコーン企業である。同社は、MaPUアーキテクチャチップなどのハードテック領域でのブレークスルーで、地域の科学技術イノベーション・エコシステム構築に深く関与し、データインテリジェンス技術の応用や産業のデジタルトランスフォーメーションを推進する重要な原動力となっている。
今後の展望として、思朗科技は「第15次5カ年計画」においても、独自のMaPUアーキテクチャを中心としたAI時代の新たな科学パラダイムの定義に参画し、ハードテックによってイノベーションの基盤を固め、中国が目指す世界的な科学技術強国の建設を力強く支えていくとしている。